2020年、新型コロナウイルス感染症の流行で在宅勤務を余儀なくされて、リモートコントロールやリモートセンシング技術の必要性を実感した方も多いのではないでしょうか。幸い、我が国はまだ都市封鎖までには至っていませんが、それでも都道府県をまたぐ不要不急の交流は制限されました。今後もコロナ以上に危険性の高い感染症が流行しないとは言い切れません。
そのため、医薬品や生活物資の供給、また罹患検査などを安全に実施できる手立てを今考えておくことが必要です。その解決策としてドローンが注目されています。
距離を保ってドローン健康診断
患者と向き合う医療関係者にとって、確保したくてもできないソーシャルディスタンス。そのジレンマをドローンが解決してくれそうです。
ドローンで体温、脈拍、咳まで感知
南オーストラリア大学(南オーストリア州アドレーデ)は、カナダのドローン技術会社であるドラガンフライ社と提携して、感染性呼吸器疾患の疑いがある人をリモートで検出する「パンデミックドローン」を開発しています。
これは、ドローンで撮影したビデオ映像から人間の心拍数を抽出できる、画像処理アルゴリズム(2017年)を活かしたものです。同大学の広報ページによると、5〜10メートル以内なら、ドローンで空中から心拍数と呼吸数を高精度で測定できることが実証されたとしています。
さらに、ドローンに搭載された特殊なセンサーとAI技術で、熱分布や骨格の動きを解析して、オフィスや空港、クルーズ船、老人ホームなど、人混みの中からでも、くしゃみや咳をしている人を検出することができるシステムとなっています。
- (出典)UniSA working on ‘pandemic drone’ to detect coronavirus | University of south Australia
- (出典)Draganfly Selected to Globally Integrate Breakthrough Health Diagnosis Technology Immediately onto Autonomous Camera’s and Specialized Drones to Combat Coronavirus (COVID-19) and Future Health Emergencies | draganFLY
画像をAI解析、健康チェックを瞬時に
健康な人が眠っている状態と、意識を失って倒れている状態とでは、姿勢や骨格の動きが異なります。健康状態によって表れる特徴を数多く撮影、データ化して蓄積することで、その後に撮影した画像に映った人の状態から、健康かどうかをコンピューターで判断できるようになります。これが「機械学習(AI)による人物の動作、行動の解析」です。
このAI解析は、他の用途にも有効です。例えば、犯罪を企む人も特徴的な動作をするといわれています。たとえば万引き犯には、商品へ近づく際に周囲を見回したり、手にとった商品をあえて見ないようにしてバッグへ入れたり、他の商品には目もくれずに立ち去ったりする等、独特の行動が表れます。一枚の写真からは分からないことでも、連続した人の動きに着目して特徴をつかむアプローチです。来店客やスタッフの導線分析、犯罪抑止などにも役立つでしょう。
こうしたAI技術の用途は、工夫次第でいくらでも広がります。例えば、海難救助は、広大なエリアを目視で捜索するという非常に大変な業務です。この捜索業務を改善する取り組みとして、弊社は海上保安庁からの委託を受け、AIを活用した洋上の人物検出技術を提供しています。
新型コロナウイルス流行でドローン配送に再注目
新型コロナウイルス感染症の流行により、海外ではロックダウンされた地域への物資輸送方法としてドローンの運用がクローズアップされました。
ロックダウン地域にも、ドローンで安全に物資を輸送
在日アメリカ大使館の公式マガジン「アメリカン・ビュー」は、世界的なコロナ危機の対応に乗り出した数多くのアメリカ民間企業の一例として、米国カリフォルニア州に本拠地を置くジップライン・インターナショナル社を紹介しています。それによると、アフリカのガーナで、遠隔地1000以上の医療施設に、箱に収納したテストキットをドローンで配送。その後、ピックアップポイントで検体を回収しました。
同社は、2016年に同じくアフリカにあるルワンダ共和国の政府と配送センターを建設する契約を結んでおり、連日、輸血用の血液パックを空輸するドローン配送で実績のある会社です。同社のホームページによると、利用している自社設計のドローンは固定翼機。時速100km、航続距離は80kmで、雨の中でも飛行できる優れた性能を持つ機体です。
カタパルトで発射され、目的地である医療機関まで自律飛行し、庭先などにパラシュート投下して荷物を配送します。最大積載量は1.75kg、血液パック3個まで積載でき、必要に応じて複数機を利用すると説明しています。
我が国でも、ソーシャルディスタンスを保てるデリバリー方法として医療へのドローン配送の導入実験が行われました。ANAホールディングスは、2020年7月18日と19日、ドローンによる処方箋医薬品の配送実験を行いました。
実験内容は、遠隔地の患者を医師がオンラインで診療し、診療結果に基づいた処方箋医薬品の調合、オンラインによる服薬指導、ドローンによる医薬品の配送と、その後の確認まで行うもので、国内で初めての取り組みです。
今回の実験は、医療分野の物流にドローン技術を導入することで、オンライン服薬指導から薬の到着までの時間を短縮することが狙いです。また、非対面医療による感染症拡大対策や災害時の対策、CO2の削減等、さまざまな効果が期待できるとしています。本実験には、旭川医科大学、アイン薬局旭川医大店などが参加し、処方箋医薬品の運搬は「アイン薬局旭川医大店」から「特別養護老人ホーム緑が丘あさひ園」までの約540m区間で行われました。
我が国でも実用間近のドローン配送、その課題とは?
長い間、実験段階で止まっていた我が国のドローン配送がいよいよ実用に向かって動き始めています。
ドローン配送の2023年実現目指し進む法整備
2015年4月22日、首相官邸屋上でドローンが発見されました。これを機に、ドローンに対する規制が一気に強まるものと思われました。確かに、航空法が改正されて自由な飛行ができなくなるという声もありましたが、飛行ルールの明確化は、認可を得たドローンであれば安心して商用利用できる根拠となり、測量をはじめとしたドローンビジネス発展への道を開きました。
ドローンは、「空の産業革命」をもたらす新たな可能性を有する技術であるとの認識のもと、同年11月「第2回未来投資に向けた官民対話」において、安倍総理大臣が「早ければ3年以内に、ドローンを使った荷物の配送を可能とすることを目指す」と表明。2016年8月には「空の産業革命」実現に向けたロードマップが発表され、これに沿った整備が進んでいます。
ロードマップでは、ドローンの飛行形態を、目視内/外、有人/無人地帯などにより「飛行レベル1~4」として分類しています。都市部でのドローン配送が実現する段階を「レベル4」と規定し、2023年の実現を目指して法整備が進んでいます。2019年7月26日付で「無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領」が改正され、許可・承認を受けた飛行を行う場合は、事前にドローン情報基盤システム(飛行情報共有機能)のサイトへの飛行予定の入力が義務付けられました。
2020年2月28日には、無人航空機の登録制度が創設され、2022年以降、ドローン所有登録が義務付けられます。これは、ドローン操縦の免許制度導入の先駆けといえます。実際に都市部上空を飛行するためには、私有地上空を飛行する際の法的根拠や人家近辺を飛行する際のプライバシー保護、事故時の責任の所在や損害賠償制度など、さまざまな制度整備が必要で、その整備が進められています。
ドローン自律飛行、離着陸時が課題
2018年の航空法の一部改定で、山間部など第三者が立ち入る可能性の低い場所では、国土交通省の認可を得れば補助者無しで目視外飛行が可能となり、レベル3の飛行が実現。これを受けて、全国各地でドローン配送の実証実験が行われました。
東京湾に面する千葉市は、海上ルートを検討しており、臨海倉庫からマンション街の公園への荷物輸送を実現するため実験を行ってきました。2016年4月には、都市部初となるドローンのデモンストレーションを幕張新都心内の大型商業施設・高層マンションで実施しました。
同年11月には、千葉市が計画する市川塩浜周辺の物流倉庫から海上飛行による約700mの荷物配送をテスト。2018年10月には、構想の最後の部分である「マンション個宅への配送」を想定し、河川の上空を経由した約600mの飛行テストに成功しています。
東京電力ベンチャーズと地図大手のゼンリンは、山間部を縫うように続く送電線沿線を空の高速道路に見立ててドローンハイウェイ構想を推進しています。東京電力の送電鉄塔は約5万基あり、送電線の延長は約1万5000kmにおよびます。この電線ネットワークを「空から見える道しるべ」としドローンが安全に飛行できるルートを構築しようとするものです。
2019年1月には、秩父市とともに、ドローンハイウェイを活用した山間部における荷物配送実験に成功しています。実験内容はバーベキュー用品を空輸するもの。ダムとキャンプサイト間約3kmで補助者を配置しない目視外飛行に成功しています。
このように長距離空輸のルートの整備は進んでいますが、従来の宅配と同様、注文主に商品を届ける物流の最後の区間、ラスト・ワン・マイルが課題となりそうです。現在検討されている離着陸はドローンポートを利用する方式です。
細心の注意が必要な医薬品輸送。屋内飛行も考慮が必要
国土交通省は、ブルーイノベーションや東京大学と連携して、2016年に「物流用ドローンポート連絡会」を設置しました。ここでは、ドローンの目視外飛行における安全な自動離着陸が可能で、安価に設置できる物流用ドローンポートシステムの研究開発が行われています。
同連絡会の構想は、配送先のドローンポートまで自律飛行し、誤差数十cm内で着陸エリアに誘導、着陸し荷物を降ろした上で再度離陸、元の場所まで自動的に戻るための離着陸支援システムです。ポートは運航を支援するクラウドシステムで管理され、飛行経路の周辺の危険物や第三者の侵入を検出、気象の確認などのポート環境を反映した離着陸の可否決定や飛行経路の決定までを行います。
拠点間配送、個人宅配送など、さまざまな条件下でのドローンポートのタイプが検討されています。医薬品など品質に注意を要する荷物を扱う運搬では、屋根付きのドローンポートでの受け渡しが必要となるため、そのための誘導手段なども提案しています。
確かに、ルワンダで行われているような血液パックの投下方式は、我が国での運用は考えられず、屋内での取り扱いが妥当です。屋内だけでなく、都市部では、電波干渉で遠隔操作に支障が出たり、建物の影でGPSが十分に働かないエリアの飛行を余儀なくされたりすることが考えられます。
そのため、非GPS環境下でも正確な自律飛行を可能にするシステムがレベル4では必須の技術となります。弊社はARマーカー方式の自律飛行システムを開発しており、一般家屋内のような狭い空間でも、工場建屋内などの広い空間でも正確に自律飛行させることに成功しています。
新しい社会を支える新しい技術
新型コロナウイルス感染症の流行を契機に、リモートセンシングやドローン配送など人と直接触れない調査や物流技術がクローズアップされ、実用化のニーズに拍車がかかっています。新しい社会を新しい技術が支える姿が見えてきたといえるでしょう。
弊社は、ドローンを飛ばすだけでなく得られたデータを活用するソフトウェアの開発を手掛ける会社です。そのため、弊社はさまざまな技術を検証し、早くからドローンによるリモートセンシングとデータを活用するAIの開発に取り組んできました。同時に、独自開発したARマーカーによる自律飛行方式の精度を高めるとともに、より導入しやすい技術となるよう研究を進めています。ドローンの運用に関する疑問や課題をお持ちでしたら、お気軽にご相談ください。