東京オリンピックの開催を2020年に控え、試合の行われるスタジアム周辺は、多くの海外要人や観光客でごった返すことが予想されています。そのような予測の中で、ドローンを使った警備の可能性について語られることも増えてきました。
そこでこの記事では、ドローン警備のハードルと合わせて、ドローンを使った警備の可能性についてご紹介します。
ドローンを使った警備の必要性が叫ばれている
ではなぜ、ドローンを使った警備の可能性について語られるようになってきたのでしょうか。それは、警備業界を取り巻くいくつかの課題が浮き彫りになってきたからです。
日本の警備業界の現状
もともと警備業界は労働集約型産業です。現在、約54万人が警備業に従事しています。しかし、日本の平均求人倍率1.1倍に対して、警備業の求人倍率は6.5倍と、警備業界は特に人手不足の状況が続いています。
これには、警備の作業環境の問題があります。警備の現場は過酷です。猛暑であろうと豪雨であろうと立ち続けなければなりませんし、このような労働対価としての給与が低いことから、警備の職に就こうとする人の数が少なくなってきています。
そのため、日雇労働者を活用せざるを得なかったこともあり、社会保険未加入といった問題も発生しています。さらには、日本の労働人口が減少してきていることにより、これまでの労働集約型の警備業が維持できなくなってきているのです。
一方、2020年東京オリンピックでは、世界中から要人、不特定多数の外国人観光客が集まるため、これまで以上の警備のレベルが求められることになります。大阪G20サミットの厳戒態勢を見ると、あるいは東京オリンピックの際に求められる警備レベルを推測することができるのではないでしょうか。
警備業の担い手不足や、東京オリンピックで求められる警備ニーズを見越して、新エネルギー・産業技術総合機構(NEDO)や警察庁では、民間企業や有識者と連携して、ドローンを使った警備に可能性を見出そうとしています。
ドローン活用の現状
ドローンは空撮という特性を利用して人の代わりに巡回する方法が既に始められています。更に技術が進めば、定常状態の建物内のイメージ図をドローンに記憶させ、そのイメージ図を参考にドローンに空撮時の画像との乖離がないかを人工的に判断させることも可能になるでしょう。
イメージ図と実撮影時の乖離の有無によって状況を判断させ、もし異常があった場合には警備センターへ連絡をするなど、現場へ赴かずとも一括して複数の建物を管理できるようになります。この様な技術とドローンの無人操縦、人工知能という機能を使えば、より安全で確実な警備が可能になります。
異常を検出する技術
警備中は『普段と違うところとはないか』『あやしい動きをしている人はいないか』などの確認が行われていますが、これにはその場に適した判断が必要となるため、基本的には巡回をドローン、その映像を管理室で人間がチェックする、という分担が考えられます。ただし、人間の負担を軽減するために、映像を自動解析して『普段と違うところ』や『あやしい動き』があれば警告するようなシステムを作ることは可能です。
『普段と違うところ』の検出は、大雑把にいうと『普段』の映像と実際の映像とを比較して差異があるかどうかで判断できます。ドローンを巡回させる場合は、あらかじめ巡回ルートにおける平時の映像を撮影しておくことで比較が可能となります。
また、駐車場などであれば、空きスペースに新しい車が駐車すると映像が変化したことになりますが、直ちに異常とはいえません。この場合、車(の形をした物体)による差異は異常としない、など目的に応じてシステムを調整・開発することが重要です。
『あやしい動き』の検出は、物体がどのように移動しているかを画像解析することで判断できます。同じ位置で長時間動かない人や、行ったり来たりを繰り返している人などが不審な行動にあたるかもしれませんが、どういったケースを警告の対象とするかは業種、業態によって異なりますので、システム担当者と十分に検討することをお勧めいたします。
国内外におけるサービス
国内では、セコム株式会社が2015年12月11日よりセコムドローンのサービス提供を開始しています。
また、米国のスタートアップAptonomyはカメラ、スピーカー、ストロボ付きの防犯を目的としたドローンを開発しています。ドローンを利用しての防犯対策は、起きている犯罪を防ぐのではなく、証拠を集めるのに最適です。そして、人間のガードマンよりもコストが安く、防犯カメラや警報装置よりも効果的であるため、こちらも今後の活用に注目が集まります。
ドローンを使った警備が実現するためにはこんなにハードルがある
ドローンを使った警備が期待される中で、ドローンの飛行を規制する法規制やドローンの機体自体・周辺システムの整備等、技術的な側面も含めて、障壁となる事柄はいくつもありそうです。
小型無人機等飛行禁止法
東京オリンピックのメイン会場となるオリンピックスタジアム以外にも、試合会場は日本武道館、皇居外苑などが計画されています。これらの試合会場は、小型無人機等飛行禁止法により飛行禁止地域と定められている、皇居や御所などの皇族施設、国会議事堂や首相官邸などの国の重要な施設、その他外国公館の周辺地域が含まれており、ドローンを使った警備の実現には、関係各方面との調整が必要です。
航空法
航空法では、東京都23区内など人家の集中地域でのドローンの飛行を禁止しており、飛行させたい場合は国土交通省から許可を得る必要があります。また、催物会場での飛行や日の出前・日没後の飛行も禁止されており、飛行させたい場合は同様に国土交通省からの許可を得る必要がありますが、より厳しい安全管理対策を講じなくてはいけません。
個人情報保護法等
中国では顔認識システムを用いて、交通ルールに違反した民間人を取り締まる動きも見られますが、日本では個人情報保護法上、中国と同様の取り締まりを行うことは現実的ではありません。警察であればまだしも、民間企業である警備会社となればなおさらのことです。
仮に、民間警備会社が活用するドローンの顔認識機能を用いて、警察の犯罪者データベースと照合することが可能になったとしても、微罪で逮捕された過去を持つ人もすべて特定されてしまう可能性があるため、倫理面で批判を避けられない可能性があります。
飛行時間の短さ、通信可能距離等の技術的なハードル
ドローンを使った警備の実現には、法的な障壁以外にも、技術的なハードルも立ちふさがります。バッテリーの技術向上は日進月歩で進められていますが、現時点では数十分の飛行が限界です。オリンピック開催期間中、試合会場上空を24時間体制でドローンを飛ばして巡回警備するとすれば、相当数の予備バッテリーを準備してピストン飛行させる必要があります。また、通信可能距離に限界があることや、ドローン同士の混線といったトラブルが生じることも予想されているのです。
ドローンを使った警備が可能になると、こんな将来が実現する
東京オリンピックまでにドローンを使った警備を実現するためには、たくさんのハードルを乗り越える必要があることが分かりますが、ドローンを使った警備が可能になると、私たちの生活にはどんな変化があるのでしょうか。
国際指名手配犯がテロ実行前に認知することができる
ドローンの顔認識技術により、不審者検知をすることができるので、犯罪行為の未然防止に役立てることができます。例えば、国際指名手配犯がテロを実行することを予測して、あらかじめカメラ映像による監視下に置いておくことができるようになるかもしれません。
逃走犯を空から追跡できる
ドローンはヘリコプターより低空で小回りが効きますし、対象物の自動追跡機能と位置情報により、犯罪実行者や不審車両等を今より安全に、かつ、確実に追跡することが可能です。
課題はあるものの、そう遠くない未来にドローン警備は実現する
ドローン警備の実現には、法的、技術的、倫理面などの課題はあるものの、警備業の労働集約型のビジネスモデルの継続が危ぶまれている現在、国の後押しも相まって、そう遠くない未来にドローンを使った警備が開始されるものと考えられます。当社の持つ高度な画像解析技術により、不審者の特徴を検知して警報を発するシステムの構築も可能です。当社の技術・サービスに関するお問合せは下記よりお受けしております。