荷物の輸送や農薬散布、高精細映像の撮影など用途が広がる中、ドローンは積載能力の高い大型のものに焦点が当たりがちです。一方で小型ドローンもレースで使用されるマイクロドローンを映像作品の制作に使ったり、パイプ内部の点検への利用が検討されたりと用途を広げています。

密集した建物と建物の間や工場建屋内に並ぶ機械の隙間、地下水路など人が入れない狭い空間は、小型ドローンの新しい活躍の場になりそうです。狭い空間でのドローン利用について、そのメリットや課題を見ていきましょう。

広がるマイクロドローンの用途

小型ドローンというと、手のひらサイズの小さなドローンが時速150km以上の猛スピードでタイムを競うレースが思い浮かびます。しかし小型ドローンはタイムを競うレースだけではなく、演技で観客を魅了するFPV=First Person View(一人称視点)レーシングや同フリースタイル、ドローンスカイバトルなど多くのカテゴリーが一般社団法人日本ドローンレース協会のホームページで紹介されており、バリエーションの広さに驚かされます。

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障害物をマニュアル回避しながら高速飛行するレース用ドローン

同協会の公式ルールブックには、レースに応じて使用できるドローンの重量が定められています。FPVレーシングのタイニードローンレースやTクラス用ドローンは上限30gですが、最重量級のXクラスでは上限2kgと中型ドローン並みの大きなものも。また、フリースタイルのフィギュアドローンは上限1kgと様々です。

いずれも飛行を安定させるためのGPSや超音波、気圧センサーなどを使わないので、ホバリングさせるだけでも操縦は一苦労です。障害物を回避するセンサーもなく、すべてがマニュアル。パイロットの腕が頼りです。

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小型でも操縦に資格や許可が必要な場合も

レース用のドローンは、FPVカメラがとらえた映像を無線でディスプレイに送信、画面を見ながら操縦します。画像の送受信に利用される電波は5.6Ghz、5.8Ghz帯が多く、アマチュア無線4級以上の資格と無線機器の開局が必要です。このほか、FPV飛行は目視外飛行なので機体重量200gを超える機体を屋外で利用するためには航空局への認可申請も忘れてはなりません。

どんな場所でも入ってみせるドローンの役割

スピーディーでアクロバティックな演技で観客を魅了するフィギュアドローンの手法が、インパクトあるプロモーション映像の制作に取り入れられて話題になりました。大学や高等学校の教室や廊下を高速で駆け抜ける映像は、希望や躍動感を求める学校PRにぴったりな素材と言えます。

プロモーション動画制作からパイプや下水道内の点検調査まで

こうした機動力のある撮影能力を活かし、ベンチャー企業のアイ・ロボティクスはマイクロドローンを用いた狭あい部の点検サービスを2019年スタートさせました。管路、トンネルといった狭隘部に直径8~19cm、重量70~170g程度の特殊なドローンを送り込み、熟練パイロットが遠隔操作で点検撮影するものです。

デモンストレーションでは、内径20cmのダクト内を潜り抜け来場者を驚かせましたが、飛行時間がバッテリーの関係で3分と短く、課題も残ったようです。

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求められる自律飛行能力

調査や点検には、緻密なデジタルデータの蓄積が重要です。そのため、定められたルートを正確に反復飛行できる能力が必要で、自律飛行能力が不可欠と言えます。

ドローンを安定して飛行させるためにGPSが広く利用されています。しかし、狭小空間の多くは屋内や地下などGPSが届かない環境が想定されます。非GPS環境下で自分の位置を確認する方法として広く用いられているのが SLAM (Simultaneous Localization and Mapping)技術です。

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SLAMとは、カメラやレーザースキャナなど各種センサーで取得した情報に基づいて自己位置の推定と地図作成を同時に行う手法です。カメラをイメージセンサーに利用する方法が、Visual SLAM。レーザーセンサーを用いる手法がLiDAR (Light Detection and Ranging) SLAM と呼ばれています。

屋内ドローンの代表事例として紹介される「T-FREND」のインドアフライトシステムは、電波発信機を使うことで自己位置を推定する方式で、暗闇でも飛行可能なのが特徴です。狭小空間でのドローン利用の一般化には、こうした測位技術をどのように実装するかにかかっていそうです。

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小型でも高性能な機体が登場

小型ドローンが社会のあらゆる場面で大活躍する将来を予感させる手のひらサイズのドローンが、2019年相次いで登場したDJI社製のMavic MiniとExtreme Fliers社製のMicro Drone 4.0でしょう。

Power Ray(出典)Micro Drone 4.0 | Extreme Fliers

Mavic Miniは、総重量199g。最大2kmのHD動画伝送ができ、最大18分の飛行が可能。3軸ジンバルの 2.7Kカメラを搭載する高性能ドローンです。GPSとビジョンセンサーにより、垂直±0.1m、水平±0.1mという正確なホバリング。非GPS環境下でもビジョンポジショニングで安定した飛行が可能です。

Mavic Miniのホバリング制度範囲

  1. 垂直:±0.1 m(ビジョンポジショニングあり)、±0.5 m(GPSポジショニングあり)
  2. 水平:±0.1 m(ビジョンポジショニングあり)、±1.5 m(GPSポジショニングあり)
Power Ray(出典)MAVIC MINI | DJI

Micro Drone 4.0は総重量170gとさらに小型。最大10分の飛行が可能です。ソニー製センサーを搭載したカメラには2軸のメカニカルジンバルを備え、静止画は500万画素、動画は毎秒30フレームのフルHD撮影が可能です。同機の性能表示にGPSは記載されておらず、自走飛行のためにAIを備えた下向きオプティカルフローカメラ、IMU(ジャイロ/加速度計)、気圧センサーを搭載していると説明しています。非GPSで、どれだけ安定した飛行ができるか楽しみなドローンです。

環境の変化に対応し、システム開発を

今回挙げたものは既存事例に過ぎません。ドローンは小型化と高機能化が急速に進んでおり、その用途はどんどん広がっています。弊社でも、GPSが利用できない室内や地下でのドローンの自動巡回を可能にする研究に早くから取り組み、ARマーカーと画像処理による独自の屋内自動飛行制御方式を開発しています。パッケージソフトの販売ではなくお客様のニーズに合わせた“受託開発”を専門としており、お客様が利用したい環境に柔軟に対応したシステム開発を行っています。本記事に記載された技術に関するご質問や、利活用のご相談などがございましたらお気軽にお問い合わせください。

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