ドローンの特性として、簡単に操縦できる、自律飛行ができる、人が立ち入れない危険な場所に進入できる、広い敷地でも俯瞰(ふかん)で観察できる、さまざまなセンサーを搭載できるなどが挙げられます。巨大な船を建造したり、安全点検を行ったりする造船所は広い敷地、危険な高所やタンク内部など、ドローンを活用するのにぴったりな現場と言えます。

IoT導入で再生を図ろうとしている造船業。その取り組みを果たすドローンの役割や広がる用途を見ていきましょう。

我が国の造船業界の現状

造船所の様子

国土交通白書2019によると「船業は厳しい状況にあるが、世界の新造船受注量は平成28年に底を打っており、我が国のシェアも回復しつつある」としています。

参考記事

IoT導入で作業効率化を図る

国土交通省は、船舶の開発・建造から運航に至るすべてのフェーズに通信技術を活用したコミュニケーションICTを活用した技術開発に取り込んでいます。造船・海運の競争力向上を図る「i-Shipping」と、海洋開発分野で用いられる船舶等の設計、建造から操業に至るまで、幅広い分野で我が国海事産業の技術力向上等を図る「j-Ocean」を両輪とする「海事生産性革命」で、国際競争力を高め造船日本を取り戻そうとしています。

i-Shippingは、新船型投入を最速で開発・設計する i-Shipping (design)、造船工程をIoTの活用でスマート・シップヤードへ進化させる i-Shipping (production) 、自動航行船などの運航のデジタル化による顧客(海運)にとっての高付加価値化を推進する i-Shipping (operation)の3つを柱に、新造船建造量の世界シェア(売上)を2015年の20%(2.4兆円)から2025年には30%(6兆円)に押し上げようとするプロジェクトです。

i-Shippingのうち建造(production)分野では、以下の2つが推進されています。

①IoTを活用した調達・製造・管理による「工場の見える化」を目的としたシステム等の研究開発・実証試験
②中小造船業における生産設備(自動化など)投資促進

参考記事

革新的造船技術研究開発に補助も

国土交通省は、海事生産性革命の一環として、造船工程における生産性向上を目的とし、IoTやAI技術等を活用した革新的な造船技術の研究開発支援を実施しています。
革新的造船技術研究開発支援事業は、ICTを利活用した船舶建造の生産性を向上させる革新的技術の研究開発事業を支援するもので事業費の最大1/2が補助されます。対象事業者は「大手造船事業者」だけでなく、「中小造船事業者」「舶用事業者」「研究機関」なども対象となるので申請が可能です。対象となる事業は、造船工程で用いられる生産設備・システム(これらに係るソフトウェアを含む)等の開発(実証試験を含む)であって、次の要件を満たす先進的な研究開発を目的とする事業が対象です。

①造船における生産性を向上する技術の確立を目指した事業であること
②研究開発成果の早期実用化が見込まれるものであること
③造船における生産性向上のほか、環境への影響低減や造船技能者の安全性向上等の社会的ニーズにも相違しないものであること。(※①については舶用製品の製造効率化により結果的に造船における生産性を向上させる技術でも申請可)

引用: 革新的造船技術研究開発支援事業の概要 国交省 | 国土交通省

支援を受けた具体的な事業例として、作業の進捗状況や作業者の位置情報の把握など造船工程での人と作業のモニタリングによる工程管理の高度化、不測の事態や危険区域への誤侵入監視などのモニタリング、在庫状況の把握による調達の効率化。また、3次元図面を基に作業するAI自動溶接ロボットによる溶接作業効率の飛躍的向上、大型構造物(船体またはブロック・鋼構造物)への塗装に係る施工の自動化などです。ドローンは、広い工場敷地を飛びまわることができるため、データ収集の担い手となるはずです。

広大な造船所をドローンで俯瞰、ビジュアル管理

ところで、大型船を建造する造船所のスケールとはどんなものでしょうか。日本造船工業会が一例として挙げている造船所の敷地面積は83万㎡、福岡ドーム12個分です。従業員は2500人に及び敷地内の移動は自転車などを利用しているそうです。作られる船も長さ300m以上、マストの最上部は船底から60mを超すものも。巨大な造船所は、遠隔から安全に操作が可能なドローンの特性を活用できるフィールドです。

参考記事
関連記事

作業動線を空から確認、効率化に貢献

造船業界へのドローン導入の試みとして、2015年に常石造船が広島県福山市の造船所で導入実験を実施しています。同社のプレスリリースによると、実験はドローンに搭載したカメラで、建屋の天井やクレーンなどの高所部分、また工事の進捗やブロックの配置など工場の稼働状況を撮影。その映像と写真でリアルタイムに状況を確認し、設備の保守点検や工程管理の効率化を確かめるものでした。さらに、災害の発生を想定し、任意で指定した場所への急行と映像情報の精度確認が行われました。
日経クロステックは「ドローンに搭載された4Kに対応したカメラ映像により、現場を把握することができ、作業に遅れがあれば、作業員に指示を出すなど対策が取れる」「造船所の設備点検や火災発生時の調査にも積極的に活用したい」「クレーンは大きなものは、高さ約100mにもなる。ドローンを使うことで、人が危険な作業をすることなく点検できる」など実験に手応えがあったことを好意的に伝えています。

参考記事

造船所警備にも期待

建造中の火災は造船所の存続に関わる甚大な損害を招きかねません。不審火の早期発見や敷地内への不審者の侵入を未然に察知する役割として、遠隔操作による安全性やカメラとセンサーを駆使した撮影能力を持つドローンに期待ができそうです。
ドローンビジネスの専門ウエブマガジン「DroneLife」は、昨年12月からフランスのAzur Drones社が同国のダンケルク港で、世界で初めてドローンによる24時間港湾警備を始めたことを報じました。

同社は世界に何千もある商業港警備を大きなビジネスチャンスと捉えており、同港がその手始めとなりました。同港は年間300万人以上の乗客と700万トンの貨物が通過するフランス最大の港の1つです。侵入防止を目的に、自律飛行できるドローンとセキュリティーセンターのビデオシステムを組み合わせて、人の検出と識別、車両の追跡と識別、入場をチェックし、港湾施設を保護するというものです。沿岸部での広域警備という点で造船所警備の参考例となりそうです。我が国でもKDDIがAIを活用した認証技術でスタジアムなど広域警備のサービスをスタートさせており、その発展が期待されます。

参考記事
関連記事

もう始まっているメンテナンス利用

造船所の様子

大型船舶は5年間に1度の定期検査と、その間の中間検査が義務付けられています。また、船主が任意で点検・修繕を行う合入渠(あいにゅうきょ)があり、船体、機関、排水設備、操舵、揚錨設備、消防設備、貨物タンク等の内部検査や修繕などメンテナンスが行われます。

高いマストやタンク内の検査での活躍を期待

30万トンクラスのタンカーともなると、船底からマストの先端までの高さが60mを超えるものもあり、それは18階建のビルに相当する高さになります。そうした現場での危険性は素人目にも明らかです。しかし、大型船舶のタンク内の点検と言われると想像がつきません。

出光タンカーが運用する超大型タンカー「日章丸」の定期点検の様子を描いた記事に、タンク内の描写があったので紹介しましょう。

「大型タンカーでは、船のタンクの深さは29m前後です。この深さのバラストタンクが11本または13本あり、貨油タンクは、バラストタンクに囲まれていて、深さは27m前後でタンク数は17本、合計30本位が標準的なタンク数になります。
タンクの深さは、陸上の建物でいえば、約10階の高さとなりますが、当然エレベーターなどはありませんので、歩いて昇降することになります。(中略)タンクの中は、ほぼ100%の湿度で、貨油タンクの中の壁には洗い切れなかった油分が付着し、1つのタンクを検査し終わると作業服はビショ濡れといった状態になります」

引用: 超大型タンカーの定期健康診断「日章丸」のドック工事 | 出光昭和シェル

このようなとても危険な環境です。こうした過酷な条件下の点検にドローンの利用を考えるのは当然でしょう。

関連記事

国内外で進むドローンの船舶点検

ドローンの船舶検査利用は国内外ともに広がっています。ノルウェー・オスロに本部を置く船級協会DNV GLは2016年6月に初の無人機調査を実施して以来、この分野で牽引車的な役割を果たしています。すでに、ドローンによる船舶調査業務をドバイ、上海などで実施、世界的に事業を展開しています。

2017年3月にはシンガポール海事港湾庁(MPA)とともに船のドローン点検の実証実験を実施しました。検査官が危険な場所に入る必要がなくなり、より安全に検査が行えるようになります。また船主にとっては経費の削減にもなるなどの実験結果を踏まえ、同年11月に同庁は、シンガポール船籍4,600隻以上の船に対して船舶の検査にドローンを活用する方針を発表しました。
我が国でも日本海事協会ClassNKが、船舶点検でのドローンの使用に関する調査を2017年に開始し、2018年3月にクラス調査でのドローンの使用に関するガイドラインをリリースしています。ただ、ドローンは、磁気材料に囲まれた閉空間ではGPSや磁気コンパスが適切に機能しない心配もあります。そうした現場では、ドローンに搭載したカメラでマーカーが指示する内容を読み取らせて、飛行を制御する想画のARマーカー方式が活躍しそうです。

参考記事
関連記事

3D図面作成、データ蓄積で経年変化を瞬時に検査

今後は、目視の代替としての利用から、ドローンで撮影した画像情報の活用がより重視されていくことでしょう。ドローンが撮影した写真から3Dモデルを作成し、次回以降の検査に有効活用できる情報をタグ付けしていけば、錆や亀裂の発見、劣化の具合など経年変化が一目で分かり、効果的なメンテナンスが可能になります。

さらに、赤外線センサーやレーザースキャナなどの導入やインフラ点検用に開発されている打診装置など、ドローンに搭載するスキャナ次第で、多種多様なデータが取得でき、より詳しい点検が可能となります。それだけに、どれだけ正確かつ迅速にデータを解析できるかがドローン点検における技術力として問われることになります。

関連記事

水中ドローンによる船底検査

スクリューの形状に異変がないか、塗装が剥げたり錆が出ていないか、フジツボなど海洋生物が付着していないかなど、水中に隠れた船体の様子は、陸揚げしたり、ダイバーが潜水したりして調査してきました。近年、水中ドローンを利用して、そうした業務の効率化が模索されています。
調査など業務として潜水する場合、潜水士免許を持ったダイバーに依頼しなければならず、送気や監視のための補助員も必要です。また潜水時間の制約などもあります。水中ドローンであればそうした制約に縛られることなく調査できるところが魅力です。

関連記事

ドローン利用で、業務効率と安全性の向上を

広大な敷地や、高所あるいは密閉空間など危険な現場は、造船所以外にも数多くあります。プラントのタンクや煙突の点検、工場の屋根や建屋内での巡回警備など、さまざまな現場での利用を検討してはどうでしょうか。
ドローンによる3Dデータの取得と解析結果の利用で、あなたの会社でも多くの仕事が効率化できるはず。想画は、受注開発でクライアントのご要望に応じたソフトやメソッドをワンオフで開発・提供する会社です。ドローンの運用やデータ利用の方法などで課題や疑問点があれば、まずはお気軽にお問い合わせください。