高い煙突や巨大なタンク、パイプが複雑に絡み合ったプラントは、足場を組まなければ近づけなかったり、稼働中は近づくのが危険だったりする場所です。 建設業などと同様に、プラント保安分野でも、維持管理に携わる熟練従業員の高齢化と後継者不足が課題になっています。こうした現場は、ドローンが最も活躍できる舞台です。現場の省力化に貢献すると期待されるドローン利用のための制度整備や活用事例を見ていきましょう。

設備の高経年化と人手不足。点検省力化の決め手に

経済産業省「平成29年度石油精製等に係る保安対策調査等事業(スマート保安に係る経済効果及び普及活動に関する調査) 報告書」(委託先:アクセンチュア株式会社)によると、主要な原料を精製するプラントの70%以上が、2015年時点で経過年数が40年を超えています。石油コンビナートでの地震による事故を除いた一般のプラント事故件数は、1989年の50件程度と比べ直近の2016年では、250件程度と約5倍の水準に増加。今後も設備障害や事故が増加すると見ています。

プラント老朽化の実態(出典)経済産業省「平成29年度石油精製等に係る保安対策調査等事業(スマート保安に係る経済効果及び普及活動に関する調査) 報告書」(委託先:アクセンチュア株式会社)

国内プラントの31%が導入済み

このように保安力強化が急務の中、同資料の国内18石油精製事業所における年齢構成を見ると、50歳以上の熟練層と20代の若手が多く、中堅層が少ない典型的なV字型。熟練層は、今後10年間のうちに定年を迎えるため、ベテラン社員の不在解消が困難であることについて指摘しています。
そこで熟練層のノウハウや技術をデータ化し、AI やビッグデータを駆使することで若手社員も熟練層と同じレベルの作業ができるような仕組みの構築を経済産業省などが後押しする形で急いでいます。

石油コンビナート等災害防止3省連絡会議 (総務省消防庁、厚生労働省、経済産業省)が石油連盟、石油化学工業協会、日本化学工業協会に対してアンケート調査を実施したところ、回答のあった41社86事業所のうち約3割にあたる16社27事業所でドローンの活用実績のあることがわかりました。活用実績のある27事業所の利用例で最も多かったのがフレア設備(余剰ガス焼却塔)、次いで配管、タンクの順です。

参考記事

フレア設備や煙突等の高所の保安状態を視覚情報としてリアルタイムに入手可能となり、タンクに上らずに点検することで危険作業を回避できます。そのため足場を組む必要がなく、点検人員も少なくて済むので、作業の迅速化や経費節約ができることをメリットとして挙げています。

一方、プラント構造物による通信干渉、バッテリーの安全性、飛行時間、烏からの攻撃回避、暴風、防塵性能などが課題として指摘されています。

余剰ガス焼却塔や大型タンク点検で活躍

フレア設備(余剰ガス焼却塔)や大型タンクなどの高所撮影で足場が不要になることは、プラントを稼働したままの点検を可能にします。操業効率を低下させることなく点検頻度を上げ、保安力の向上に貢献してくれます。
他にも、ドローンが撮影した写真をデジタルデータとして定期的に蓄積していくことで経年変化を視覚的に捉えたり、プラント構造物の腐食状況をAI解析で自動的に判別し、計画的なメンテナンスを実施したりすることが可能です。

関連記事

プラント利用にも国が指針

石油コンビナート

こうしたドローン導入の動きにともない、石油コンビナート等災害防止3省連絡会議は「プラントにおけるドローンの安全な運用方法に関するガイドライン」(2019年3月)を公開しました。

参考記事

安全な運用方法に関するガイドラインを公表(総務省消防庁など3省)

このガイドラインは、コンビナート等の石油精製、化学工業(石油化学を含む)等のプラント内で、ドローンに搭載したカメラによる撮影等を行うときの手法や安全管理のあり方などを示したものです。国土地理院が「UAVを用いた公共測量マニュアル(案)」を公開したことで、建設業におけるドローンの利用が公式化され、ドローンの導入が活性化しました。同ガイドラインも、プラントの保安分野へのドローン導入に同じ役割を果たすことが期待されています。

参考記事

3Dモデルで飛行ルート作成、自律飛行実証実験も

ドローンは自律飛行により、正確に定点観測できるのが大きなメリットの1つです。保守点検はドローン導入により、定期的に同じ場所を観察して積み上げたデータから経年変化や変化の傾向を読み取ることが可能になります。

2019年秋、株式会社東芝と東芝エネルギーシステムズ株式会社は、ドローンを活用したプラント施設や高所設備の効率的・高精度な点検技術を開発したと発表しました。その技術とは、サイバー空間上に3Dレーザー計測技術を用いて計測した対象施設の形状を三次元で再現して、ドローンの最適な飛行ルートを選定。その飛行ルートに従って撮影した施設のデータを基に、より精密な三次元で再構成するというものです。同社が保有する画像解析技術を用いることで、サビなどを検出し、劣化箇所を特定することができるとしています。

参考記事
関連記事

柔軟な発想で、貴社のニーズに応じてソフトを開発

建設現場における測量でも、農薬散布でも、物資の輸送でも、そしてプラントの保安分野でも求められるドローンの自律飛行能力。
弊社は、クライアントと相談しながら、ニーズに応じてワンオフのソリューションソフトを受注開発する会社です。GPSが受信できないプラントの内部でも独自のマーカー方式で自律飛行を可能にします。ドローンの運用や取得データの解析など、疑問や課題があればお気軽にお問い合わせください。