インフラ点検へのドローン活用

現在、高度経済成長期に整備が進んだインフラの老朽化が進んでいます。インフラの老朽化は、倒壊による人命に関わる事故へとつながる可能性があります。
2012年12月には、中央自動車道の笹子トンネル(山梨県)で天井が崩落し、多数の死傷者を出す大事故が発生しました。
ずさんな点検によって老朽化を見落としたことが原因と言われています。

そして以下のようなことが浮き彫りになってきました。

  • 町の約3割、村の約6割で橋梁保全業務に携わっている土木技術者が存在しない
  • 地方公共団体の橋梁点検要領では、遠望目視による点検も多く(約8割)、点検の質に課題あり
  • 最低限のルール・基準が確立していない
  • メンテナンスサイクルを回す仕組みがない
引用: 老朽化の現状・老朽化対策の課題

そうしたことを受けて、新たに以下のことが定められました。

[点検]橋梁(約73万橋)・トンネル(約1万本)等は、国が定める統一的な基準により、5年に1度、近接目視による全数監視を実施
引用: 老朽化の現状・老朽化対策の課題

しかし、インフラ点検の業務は膨大な量となっており、それらを人間の手のみでこなすことは難しく、ロボットやIT技術の活用により効率化を図ろうとする試みが進められています。
そうした試みの一つとして、ドローンが選択肢の一つとして挙げられています。

2015年1月に公表された政府のロボット新戦略では、2020年に目指すべき姿として以下の目標を掲げています。

・生産性向上や省力化に資する情報化施工技術の普及率3割 ・国内の重要・老朽化インフラの20%はセンサー、ロボット、非破壊検査技術等の活用により点検・補修を高効率化 ・土砂崩落や火山等の過酷な災害現場においても有人施工と比べて遜色ない施工効率を実現
引用: ロボット新戦略のポイント Japan’s Robot Strategy -ビジョン・戦略・アクションプラン-

こうした動きにより、ドローンの技術開発および活用に対する注目が高まっている次第です。

ドローンを活用した家屋の点検

高所点検が必要となるのは、社会資本インフラに限った話ではありません。
家屋においても、屋根や外壁の損傷などの点検に役立ちます。

従来の作業方法:足場を組んだ高所作業

赤外線カメラを使用することで雨漏りや塗装の浮きを発見するといった事例があります。

従来は作業員が屋根の上に登り、近接目視作業で対応していましたが高所であるため落下の危険性などもあります。
また作業のために足場を組む必要がなくなるため、コストカットできるのも大きなメリットでしょう。

参考記事

ドローンを活用したダムの点検

広大な大きさであるダムにおいて、人間が目視で作業を行うよりもドローンを活用する方が簡単に点検作業を行うことができるでしょう。

従来の作業方法:ゴンドラを使用した近接目視、双眼鏡を使った遠望目視等

点検する対象の異常パターンなどのデータが収集されている場合、それらをもとに撮影した画像から、異常個所を検知する解析システムなどを活用することで更に効率化につながるでしょう。

また斜面や根本的に人が近づくことができなかった場所なども、ドローンであれば点検できるといったメリットもあります。

なお、ダムは貯水をするためのものであり、当然ながら水中の点検作業も存在します。
しかし、ダイバーによる潜水作業では広大なダムを点検するのに膨大な作業時間が必要となります。
空を飛ぶドローンではなく、水中ドローンとも称されることが多いROVなどの水中ロボットを活用する事例も複数あります。

株式会社FullDepth(出典)茨城県・花貫ダムにおいて、水中ドローンを活用した点検の実証試験を実施。|株式会社FullDepth

ドローンを活用した橋梁の点検

橋梁も日本国内に多く存在する社会資本インフラであり、ドローン活用に対する注目度は特に高いと言えます。

従来の作業方法:橋梁点検車、高所作業車、ロープアクセス等

ただし、ドローンを活用した橋梁の点検には、以下のようなドローンを活用するにあたり「難しい」要件が複数あります。

  • 近接撮影
  • 非GPS環境下
  • 照度が低い
  • 撮影・検出基準

いずれもハードウェアの追加搭載やソフトウェアによる対策を行うことは不可能ではありませんが、技術的なハードルは高いといえます。

ドローンはカメラを機体下方に取り付けるのが一般的ですが、橋梁点検においては天井面を撮影・点検する必要があるためカメラを機体上方に取り付けます。
また、近接撮影するためにプロペラガードを工夫し壁面や天井面に機体をくっつける製品などの開発も進められています。

ドローンを橋梁の点検に活用する場合にはこうした条件が必須となるため、大手DJI社のドローンのような一般的なドローンでは対応が難しいです。
国産の高価な産業用ドローンを用いることが前提となるでしょう。

最近では車輪のついたドローンが展示会などで注目を浴びました。

“4輪走行するドローン”で構造物壁面の打音検査を実現、ボーダック(ITmedia)(出典)“4輪走行するドローン”で構造物壁面の打音検査を実現、ボーダック(ITmedia)

ドローンを活用した鉄塔、電力設備、ビル壁面の点検

前述している活用事例にも共通しますが、いずれも危険を伴う高所作業であり、高所作業であるためドローンを活用することで効率化を図るだけでなく、安全性への確保へとつながります。

従来の作業方法:高所作業車、ロープアクセス等

ロープアクセスについては非常に危険な作業であることもあり、知識や技術が必要となるため技術資格も存在します。

日本国内で人手不足が深刻化する中で、こうした技術者を育てることもまたインフラにおける問題の一つです。

昨今では大手通信事業者であるソフトバンクが、ドローンを活用したインフラ点検事業に参入したしたことも大きな話題となりました。インフラ点検という分野において大きなニーズがあることがうかがえます。

ソフトバンク、ドローンによる社会インフラの保全サービス(出典)ドローンによる社会インフラの保全サービスを2019年春から提供(ソフトバンク株式会社)

課題点と今後の動向

ドローンを活用した目視作業や打音検診の精度については、まだまだ課題が見受けられます。

昨今ドローンの活用についてメディアでも取り上げられることが多く、問合せを受けることが増えています。正直なところ、現時点では一連のすべての業務をドローンに任せることは難しく、部分的な業務の効率化を目的として導入するといった対応が適切かと思われます。

ただし、そうした状況というのはあくまで現在の状況であり、歳月の経過と技術進歩に伴い状況が変わる可能性はあります。ロボット新戦略や空の産業革命に向けたロードマップなどで、2020年以降を目途とした実用化のための検証実験・技術開発が進められているのが現状です。

かつてのスマートフォンの進歩・普及がそうであったように、ドローンの技術進歩は凄まじいスピード感で進んでいます。期待される分野だけに今後の動向にも目が離せません。