DJI Phantom4ProやMavic2クラスのドローンを操縦したことがありますか。あまりの簡単さに驚くはずです。それは、ドローンに搭載された多種のセンサーが機体の姿勢や位置を検知し、プロペラ(ローター)の回転を調整することで、姿勢を制御しているからです。そうした操縦の容易性やドローンが何処にいるのかを測定する測位性能が優れていることが評価され、測量を始めさまざまな用途で利用されています。ドローンの性能を支えるセンサーとはどのようなものなのかを見ていきましょう。

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ドローンの頭脳フライトコントローラー

このように、人に代わって位置や危険を検知し、機体を安定させるセンサーとローターの回転を調整するユニットはフライトコントローラー(FC)と呼ばれ、ドローンの頭脳と言えるものです。

ドローンの5感を司るIMU

フライトコントローラーとは、ドローンの姿勢制御を行う部分のことで、各種センサーとCPUが搭載され、慣性計測装置=IMU(inertial measurement unit)とも呼ばれます。搭載されるセンサーはドローンのグレードにもよりますが、ジャイロセンサーと加速度センサーを基本に、GPS受信機や気圧センサー、赤外線センサーなどを搭載して飛行の安定と正確性の向上を図っています。
ドローンを人に例えるならジャイロセンサーと加速度センサーは、平衡感覚を司る三半規管。IMUは、動きを司る脳の中枢と言えるでしょう。

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飛行モードの選択で体験できるセンサーの働き

こうしたセンサーの働きは、飛行モードの変更である程度体験することができます。DJIのドローンを例にとると、プロポ(操縦機)で、Pモード(ポジショニング)、Sモード(スポーツ)、Aモード(姿勢)といった3つの飛行モードの切り替えが可能です。
Pモードはすべての姿勢制御用のセンサーが働くモードで、買ったその日から簡単にホバリングができるモードです。ところがAモードに切り替えると、GPS機能などがオフとなるため、とたんに操縦が難しくなります。微風でも機体の横流れを食い止めるのに苦労することでしょう。Sモードでは、障害物検知システムが無効になり、飛行経路上に障害物があっても自動回避がすることがありません。そのため操縦者のテクニックが問われます。

携帯でも活躍。ジャイロと加速度計で姿勢を感知

ドローンが簡単に操縦できたり自律飛行を可能にしたりできるのは、機体のピッチ、ヨー、ロールの3軸の傾度や速度を検知するジャイロセンサーと加速度計の働きがあるからです。ちなみに、3軸の動きを実際のドローンで表すと、ピッチは機体を上昇、降下させる動き。ロールは機体を傾けながら左右に旋回する動き。そしてヨーは進行方向を左右に変更する動きになります。

姿勢制御の基本センサー「ジャイロ」

ジャイロというと、ある程度以上の年齢の方は、縁日や駄菓子屋で売っていたジャイロゴマ、あるいは地球ゴマを思い出すのではないでしょうか。金属製の輪の中を円盤が勢い良く回転し、押し倒そうとしてもすぐに元通りの位置で回り続けていたものです。ジャイロセンサーは、このジャイロ効果を応用したものです。古くから船やロケットの誘導装置として利用されてきました。

ジャイロセンサーは、角速度を調べるセンサーです。角速度とは、円周上を移動する物体の単位時間(1秒)に回転する角度を表したものです。ドローンに利用されているジャイロセンサーは、カメラの手ブレ検出やロボットの姿勢制御に使われている振動ジャイロセンサーで、小型かつ高精度なデバイスです。機体のピッチ、ヨー、ロールの3軸の角速度を連続的に計測して、移動したそれぞれの角度を誤差として修正することで機体の姿勢を維持します。

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3軸の動きの速度を検出する加速度計

加速度計は、物体の加速度(速度の変化率)を計測するためのセンサーです。ドローンにはX・Y・Zの3軸の加速度が検出できるセンサーが搭載されています。加速度計は傾きや振動を感知できるため、スマートフォンのディスプレイ表示を縦横に切り替えたり、万歩計に利用されたりもしています。
加速度計で検出した加速度から速度や距離を求めたり、ジャイロで求めた移動の方向と組み合わせることで機体の位置を特定することができます。

フライトの精度を上げるGPSや気圧センサー

自動飛行による測量や農薬散布などに利用できる正確な自律飛行が可能なドローンには、さらに多くのセンサーが搭載されています。

GNSS(GPS)受信機で自分の位置を確認

GNSSとは、人工衛星を利用した全地球測位システムのことで、GPSはその一つです。GPSは、米国が1970年代に軍事目的で開発した衛星測位システムです。今ではカーナビを始めスマートフォンやカメラなどにも搭載されているので、すっかりお馴染みの言葉になっています。
GNSSを利用したドローンのホバリング精度は、垂直方向±0.5m、水平方向±1.5m程度あります。RTK受信機を備えた機体だと、例えばDJI Phantom4 RTKでは、ホバリング時の精度は、垂直方向±0.1m、水平方向±0.1mと、cm単位の精度を実現しています。そのためドローンは近年、測量機器として確かな地位を確立し、ICT技術(情報通信技術)を活用して生産性の向上を目的とした取り組みi-Constructionの牽引役として活躍を始めています。
ただ、衛星からの電波の届かない環境下ではGNSSのデータは利用できません、屋内やトンネル内部などの点検調査へのドローン導入が期待されているだけに、代替案の開発が急がれます。

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方位を知る磁気センサー

スマートフォンやスポーツウオッチが方位磁石代わりに利用できるのは、地磁気を検出して方位を割り出す磁気センサーが内蔵されているからです。ドローンもこの磁気センサーによって東西南北を確認しています。電子コンパスの場合、移動に伴い、正常な方位を指さなくなることがあります。それは磁力線が示す北(磁北)と地図の北がずれているためです。そのずれ(偏角)は場所によって変わります。

各地の偏角は国土地理院のホームページで調べることができます。例えば、札幌では磁北の向きが地図の北よりも約9度西にずれており、那覇では約5度のずれです。そのため遠方に出かけてドローンを飛行させる場合、事前にコンパスキャリブレーションを行う必要があります、また、磁気センサーは、磁場を発するものの近くでは支障が出る恐れがあります。安全にドローンを飛行させるためには、通信アンテナなど周辺環境への注意が必要です。

飛行高度を知る気圧センサー

ドローンは航空法で150m以下の対地上高度で飛行するよう規制されています。また、空中写真測量でも、設定高度で飛行する必要があるので、高度はドローンの安全な飛行や、業務利用に不可欠なデータです。こうした飛行高度はGPSセンサーで取得していますが、GPSを利用できない環境下では、気圧センサーが高度計の役割を果たします。
大気圧は、高度が上がるとともに、一定の割合で低下していきます。標準大気圧は海抜0mで1013hPaですが、標高3000m程度までは、高度が10m増すごとに1hPaずつ気圧が下がっていきます。この性質を利用し気圧センサーで測定した数値に、気温などのデータを加味して飛行高度が算出されます。

赤外線や超音波センサーで障害物検知

また、ドローンには、GPS が使えない屋内などの環境下で機体の姿勢を安定させたり、飛行ルート上の障害物を検知して回避させたりするための超音波センサーや赤外線センサーなども搭載されています。ただ、現状では、吸音性のある材質の上空では、超音波センサーは距離を正確に測定できないことがあるなど、まだまだ多くの課題があります。
高性能と言われるDJI社製のPhantom4 Pro の仕様書には、使用上の注意としてセンサーの弱点が記載されています。「反射率が高い地表面上や水面、または透明な地表面上の飛行」「照明が頻繁に、または急激に変わる領域を飛行する場合」「非常に暗い(10 ルクス未満)または非常に明るい(100,000 ルクス超)地表面上を飛行する場合」「はっきりした模様や構造のない地表面上を飛行」「 同じ模様や構造が繰り返し現れる(同じデザインのタイルなど)地表面上を飛行」などです。
自律飛行支援機能や自動衝突防止機能は、目視外飛行やプログラムによる自律飛行に不可欠な機能です。ドローン配送など長距離自律飛行の実用化に向けその精度の向上が望まれています。

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高性能なビルドインカメラの魅力

ドローンにビルトインされているカメラの性能はどの程度のものでしょうか。
DJI社製のPhantom4 Proの場合、20MP(1インチ)のCMOSセンサー、視野角84°、 AF(f/2.8~f/11) 24mm (35 mm判換算) のレンズにメカニカルシャッターを搭載した高級コンデジ並みのスペックで、撮影データは商業写真として十分通用するレベルです。こうした高性能を活かして空中測量機器としての活用も始まっています。
空中写真測量では、ステレオ写真の原理を応用して、重なり合わせて撮影した写真から3Dデジタルデータが取得できます。その3Dデジタルデータは地図の作成から3Dモデルの制作まで幅広く利用されます。

ドローンの自律飛行機能で精度の高い測量が可能

国土地理院は近年のドローンの性能向上を認め、高い精度が求められる公共測量にドローンが使用できるよう平成 28 年 3 月に「UAVを用いた公共測量マニュアル(案)」(平成 29 年 3 月改正)を作成しました。 その中で、ドローンの性能として第一に挙げているのが、これまで見てきたような多くのセンサーに支えられた自律飛行機能です。空中写真測量では、指定した測量範囲を、決められたルートに沿って飛行し、決められた割合でオーバーラップするよう写真を連続撮影しなければなりません。カメラで得たデータを活かすためには、高い測位性能に裏付けされた正確なフライトが重要であるためです。

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非GPS環境でもカメラ利用で自律飛行が可能に

利用の本格化とともに、ドローンの利用現場も多様化しています。ドローン本体とプロポとの通信には主に2.4GHz帯の電波が利用されています。そのため、携帯電話の基地局(電波鉄塔)付近では受信感度の低下や感度抑圧等、不安定になる場合があります。
また、非GPS環境では現在位置が特定できず、風に流されていてもそれを検知できずに事故に結びつく恐れもあります。自動飛行どころかホバリングすらできない事態も考えられます。

そのため非GPS環境での自律飛行を行う技術が研究されています。例えば、想画では、ARマーカーと画像処理を用いたドローンの屋内自動飛行制御を開発しています。GNSSに代わってドローンに位置情報を提供するためのツールとして簡易マーカーを壁に貼り、ドローンに搭載されたカメラからそのマーカーが指示する内容を受け取り、飛行制御に利用するものです。高価になりがちな非GPS環境下での自律飛行制御ですが、搭載カメラをセンサーとして利用するという発想の転換で、導入コストを抑えた簡易的な手法で実現できます。

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コストを抑えたドローン利用法を個別にご提案

想画は、クライアントのニーズに合わせてソフトを受注開発する会社です。記事で紹介した非GPS環境下での自律飛行の開発のほか、標準搭載のセンサーでは困難な条件においても、AIや画像認識等の弊社が得意とするソフトウェア開発力を駆使し、新たなソリューションをお客さまとともに作り上げていきます。ドローンの運用、センシング用センサーに関する疑問、データ解析ソフトに関するご要望などがあれば、お気軽にお問い合わせください。