農薬や種苗の散布で注目されているドローンの農業利用ですが、それだけでは従来の無人ヘリコプター利用と変わりません。優れた測位性能に基づいたドローンの正確な自律飛行能力や多様なセンサーを用途に合わせて付け替えられる柔軟性を活かして、作物の生育状況の把握や鳥獣被害対策などに活用されています。

さらに、非GPS下での自律飛行制御との組み合わせで、温室内でもドローンの運用が可能となり、精密農業のさらなる高度化による生産効率と利益の向上が期待できます。

農業効率化貢献。広がるドローンの用途

広範囲を手軽に、しかもスピーディーに、俯瞰して監視できるのがドローンの魅力です。ドローンが広い農地を指定通りのコースに沿って自律飛行しながら写真や動画を撮影することで、人間が農地を回るよりも時間を大幅に短縮できます。また、撮影した画像を自動解析するシステムを加えることで、人間による画像のチェック作業も削減でき、農場経営の効率化に貢献しています。

NDVIドローンセンシングで生育状況を把握

ドローンに標準搭載されている可視光カメラで撮影した写真から農地や植物の様子は確認できますが、赤外線センサーを用いるとさらに多くのことが分かります。植物は光合成のために、可視光線を吸収しますが、近赤外線波長の領域は、吸収せずに反射する特徴があります。

この特徴を利用して数値化したものが、NDVI(Normalized Difference Vegetation Index:正規化植生指数)です。農地の上空から赤外線撮影したデータを解析すると、盛んに光合成を行っている区間とそうでない区間を可視化できます。

こうしたデータを詳しく解析することで、作物の生育状態を把握し、適切な農薬や肥料散布エリアと量の決定などに役立てることができます。弊社では、新潟県魚沼市の水田にて近赤外線カメラによる撮影および、自社開発のNDVIセンシングアプリケーションのテストを実施する等、ドローンの飛行制御からシステム開発、データ分析まで幅広い実務を行っております。

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利益を蝕む鳥獣害対策にもドローンが活躍

農林水産省によると、2018年度の鳥獣被害は約158億円にのぼり、農村の存続をも脅かす問題となっています。高齢化と人手不足に悩む農家にとって、効率的な「罠の設置」や「追い払い」の実現は、農業経営の大きな助けとなります。その手立てとして、害獣被害が集中する場所や侵入経路の把握が容易にできるドローンの活用が進められています。

一口に害獣といっても、シカ、イノシシ、クマ、サル、カラスなど多種にわたり、それぞれ習性も違います。害獣種別の判別は、捕獲方法を選択するための大切な情報です。例えば、赤外線センサーと「機械学習(AI)による物体認識」を連携させることで、夜間でも害獣の行動が監視できます。そのため、農地への侵入を検知したら獣種を判別すると同時に、管理者への連絡、さらにドローンで自動追跡や、音響やライトによる「追い払い」なども可能になります。

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ドローンが巡回、温室農業をスマート化

温室を利用する施設園芸においても従事者の減少が課題です。ICT(情報通信技術)を活用した、いわゆる植物工場が解決策として注目されています。風雨を気にしないで済む温室内は、新しいドローンの活躍の場となるでしょう。

温室内の生育管理や害虫退治にドローンが活躍

温室と温度計の画像

植物工場で一歩先んじるオランダでは、温室内での生育管理や害虫退治にドローンが利用されています。

CORVUS DRONES社は、ドローンにRGBカメラやマルチスペクトルカメラ、温度計、照度計、CO2センサーなどを搭載し、温室内の環境管理を行っています。データはAI解析し、植物の健康状態を確認できるシステムで、ドローンは自律飛行してデータを収集し、サーバーで分析が行われます。花のつぼみの数や葉面積の推定、収穫時期や量の予測、初期の病気の検出、場所による温度、湿度の変動検出など、数多くの解析成果が得られます。こうしたデータから、施肥、農薬散布、散水量、温度などのきめ細かい管理が可能となり、収益の向上に寄与します。

一方PATS社は、ドローンによる農薬を使わない害虫駆除システムを開発しています。モニタリングシステムが、温室内に害虫が侵入して飛行しているのを検知すると、小型ドローンがその虫を目掛けて飛び立ち、ドローンのローターで粉々に粉砕するというものです。害虫駆除に関わるコストが削減できるだけでなく、有害な昆虫を選択して排除することができるシステムで、益虫は排除されないため、温室の生態学的バランスが維持できます。世界的に殺虫剤の使用に関する反発が高まる中、無農薬栽培は、エコロジーを大切にする企業というブランド・イメージの向上にも役立つでしょう。

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ARマーカー方式で、温室内巡回を容易に実現

温室内でも活躍が期待されているドローンですが、室内はGPSの受信状況が安定しないことが多いため、あらかじめ非GPS環境下でも安定して自律飛行できるシステムが欠かせません。自分の位置を推定しながら周辺の地図を作成することで自律飛行を可能とするSLAM (Simultaneous Localization and Mapping) と呼ばれる技術がありますが、導入には高価なセンサー類や複雑な運用システムが必要です。

弊社では、シンプルかつ手頃な価格で導入できるARマーカー方式による自律飛行システムを開発しています。飛行命令を書き込んだARマーカーを室内の要所に貼るだけで、ホビークラスのドローンでも搭載されたカメラで難なく命令が読み取れ、指示通りの動作ができることが実証されています。業務用の大型ドローンを利用すれば、さまざまなセンサーが搭載できるので、温室内で必要なあらゆるデータを手軽に収集できるようになります。

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センシングとAIで広がるビジネスチャンス

弊社は早くからNDVIセンシングや、データを活用するAIの開発に取り組み、クライアントのニーズに応じたソフトウェアを受注開発している会社です。農業分野だけでなく、測量・設計、インフラ点検、防犯・防災、捜索・監視など、幅広い分野でドローンセンシングに携わり、技術と工夫で、導入して良かったと言っていただけるソフトウェアの開発に努めています。ドローンセンシングに関する疑問やこんな利用はできないかといったご要望があれば、お気軽にご相談ください。