従来から農業では、模型ヘリコプターなどが農薬散布に利用されてきましたが、ドローンの登場で、その用途は大きな広がりを見せています。

例えば、空中写真を解析することで作物の健康状態の把握や収穫時期の判断に役立てたり、収穫量の推定に役立てたりすることができます。 そうしたデータは、どのようにして収集するのか。また、それらデータを取得するために必要なドローンとはどんな機体なのか詳しく見ていきましょう。

農薬散布だけではない、農業現場のドローン活用

農林水産省の「農村の現状に関する統計」によると、平成22年に205.1万人あった基幹的農業従事者数は、平成30年には140.4万人に減少しています。65歳以上の高齢者の割合も6割から7割に上昇し、農業者の高齢化の進行と深刻な労働力不足が進行していることがわかります。農業に若者を呼び戻す魅力ある職場とするため、スマート農業が推進されており、そのけん引役としてドローンの活躍が期待されています。

ICT導入で進むスマート農業

農林水産省は、「スマート農業の展開について(2019年7月)」で、スマート農業のねらいとして、次の3つの項目をあげています。

  • 「ロボットトラクタやスマホで操作する水田の水管理システムなど、先端技術を駆使した作業の自動化により規模拡大」
  • 「熟練農家の匠の技の農業技術を、ICT技術により、若手農家に技術継承する」
  • 「センシングデータ等の活用・解析により、農作物の生育や病害を正確に予測し、高度な農業経営」

ドローン空中写真で作物の生育データを収集、収益向上に

ドローンは、そうしたデータ収集のツールとして最適で、スマート農業のけん引役として注目されているわけです。農林水産省の「スマート農業取組事例(平成30年度調査)」 で紹介されている「つじ農園」(三重県津市)は、「ドローンを活用したマルチスペクトル生育診断による米の品質向上」を目指す事例です。

それによると、平成29年より、ドローンとマルチスペクトルカメラによる生育診断の研究を開始し、圃場内に秋冬の土づくりに起因する生育ムラがあることを確認。平成30年はムラの原因となった工程を改善して生育を均一化に成功。今後は、栽培中の生育の変化を観察することで次年度以降の収量や食味値の向上、栽培の均一化を図るツールにしていく。さらに、品質を確保したお米にストーリーをつけて高付加価値商品にして販売する、という明るい展望を紹介しています。

ドローンが手伝って作られた『ドローン米』、パック加工して2017年3月に世界で販売開始|engadget(出典)ドローンが手伝って作られた『ドローン米』、パック加工して2017年3月に世界で販売開始|engadget

近赤外線カメラで素早く作物の健康診断

ドローンに搭載するカメラを選ぶことによって、目的に応じたデータ取得が可能です。

光の吸収量測定で植物の活性度を把握、効果的な農薬散布や収穫予測が可能に

植物の活性状態を光の吸収量の測定から知ることができます。 植物は光合成のために、光を吸収しますが、近赤外線波長の領域は吸収せずに反射します。この現象を利用して数値化されたものが、NDVI(Normalized Difference Vegetation Index)=正規植生指標です。NDVI画像で、赤色で表示されている部分は植物がないか、または植物に異常がある状態を示しています。

緑色の部分は植物があるか、植物が健康な状態を示しており、直感的に作物の健康状態を知ることができます。こうした作物の生育活性度の他にも、作物の密度分布、窒素吸収量の分布を知ることができ、作物の収穫時期の判断・収穫量の推計などに役立てることが出来ます。

NDVI(出典)ドローンリモートセンシング技術による農作物の育成状況監視|株式会社サイバネテック

安価な赤外線センサーと中型ドローンで、導入容易に

これまで、NDVI解析のためには高価な赤外線カメラが必要でしたが、ドローン利用の多角化の中で機材選択に幅が出てきました。DJIは、今年10月から完全統合型マルチスペクトルイメージングドローン「P4 MULTISPECTRAL」の販売を始めました。DJI TerraライセンスとDJI GS Pro(Team-Professional)iPadアプリライセンス(ともに1年間)が付属して約85万円。 本格的な精密農業の到来を予感させます。

P4 Multispectral – 高精度植生データ|DJI(出典)P4 Multispectral – 高精度植生データ|DJI

弊社ではさらに導入を容易にするための取り組みとして、DJI社製のPhantom4など中型ドローンに赤外線カメラをアタッチメントでマウント搭載する方式で、NDVIセンシングを実現するテストを実施、好結果を得ています。

同実験に使用した機材は、PHantom4 pro とGoProサイズの近赤外線カメラ Survey3(米国MAPIR社製)。同カメラはドローンマウント用のアタッチメントをつけても10万円弱と手頃な価格です。

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最小限の機能を低コストで、精密農業への第一歩を

作物の育ちが良いエリアと悪いエリアがわかれば、肥料散布を効率的に行えたり、農薬を必要な箇所にだけ散布できたり、と利点が多々あります。

一方で現在普及しているスマート農業のためのツールの多くが、高機能・高価格という側面があります。実際には「〇〇ができるだけで十分だから、価格がもっと低ければ…」といったニーズもあるのではないでしょうか。

弊社は、実証実験を通してできる限り身近な資材で「かゆい所に手が届く」ワンオフのシステムを提供する企業です。パッケージ製品などと違い、最小限の機能だけを低価格化で開発するといった対応も可能です。まずはご相談から承ります。ホームページ内のお問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください。