スパイ映画で夜間の敵の姿を確認する際などに使われるノクトビジョン。動物番組で夜間の生態撮影に登場する暗視カメラ。いずれも赤外線カメラや赤外線センサーとも呼ばれ、肉眼では見えない赤外線(熱)を捉えるセンサーです。ドローンに搭載して、太陽光発電装置の不良部分の特定や不審火の発見など監視用途に利用され、作業の効率アップに貢献しています。そうした暗視能力を持ったドローンを害獣対策でも活用する動きが活発化しています。

恐ろしい獣害、コミュニティー崩壊も

害獣の食害による金銭的被害もさることながら、収穫を前に害獣に食い荒らされた農地の惨状を目の前にした農家の落胆は察してあまりあるものがあります。害獣被害に耐えかねて離農を余儀なくされるケースもあります。

ハクビシンによる食害の画像
ハクビシンによる食害

生活環境蝕む害獣

「全国の野生鳥獣による農作物被害状況について」(農林水産省)によると、平成30年度の野生鳥獣による農作物被害額は158億円。全体の約7割(109億円)がシカ(54億円)、イノシシ(47億円)、サル(8億円)で占められています。平成25年 12月に環境省と農水省は「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」を策定、シカ、イノシシの生息頭数を418万頭から202万頭にまで10年かけて半減させることを目指して捕獲を進めています。

その甲斐あって近年、被害金額、害獣の頭数ともに減少傾向にあります。しかし、鳥獣被害は高齢化する農業従事者にとって営農意欲の減退に及ぼす影響が大きく、耕作放棄・離農の増加に拍車をかけかねません。イノシシによる収穫期の水稲被害、サルによるダイコンなどの作物食害、シカによる牧草被害、車との衝突事故、家屋内への生息と糞害など、獣害は多岐におよび、さまざまな場面で生活環境が蝕まれているのです。

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シカ、イノシシを捕獲してジビエ利用。柵の設置、捕獲をICTで効率化

農水省は、深刻な農作物被害を生じさせているシカ、イノシシ、サルの捕獲を強化と野生鳥獣のジビエ利用量の拡大を進めています。その支援策として、「⿃獣被害防⽌総合対策交付⾦」が設けられており、侵入防止柵の設置、再編整備や捕獲機材の導入、刈り払い等による生息環境の管理、捕獲活動の経費といった支援が受けられます。その中にICT(情報通信技術)等を活⽤した効率的な捕獲活動の取組の⽀援も掲げられており、ICT罠やドローンの活⽤等も支援対象となっています。

同省のホームページには「鳥獣被害対策コーナー」があり、「ICT活用機器情報」のページで、様々なセンサーを備えた罠や監視装備が紹介されています。ドローン利用では、夜間に赤外線サーモカメラで捉えたデータを画像解析技術で視覚化し、空撮画像を解析し、鳥獣の分布や数を確認。生息状況や生態、獣道を正確に把握して、捕獲の効率化をはかるプランなどが取り上げられています。

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赤外線センサー搭載ドローンで害獣の動向を把握

各種対策を効果的に進めていくには、害獣の個体群の動向をモニタリングすることが不可欠です。夕刻から活発化し、薄暗がりの中で里に姿を現す害獣でも、暗視が利く赤外線センサーを搭載したドローンなら詳細に行動を把握することが可能です。

機械学習を活用した物体認識と連携、害獣の自動追跡

害獣が活動する夜間に赤外線サーモカメラを搭載したドローンの空撮画像からSfM/MVS技術を利用して3Dデータを生成、生息域をマッピングすることで効果的な罠の設置場所を発見し、捕獲の効率化を図ることができます。また、動画を解析、 取得したデータから害獣の頭数を自動集計することも可能で、害獣駆除の効果の検証に役立てることができます。

さらに、想画で開発している機械学習を活用した物体認識と連携させれば、生息密度モニタリングを大幅にスピードアップできるはずです。

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巡回パトロールで追い払いも

害獣の生態調査だけでなく、追い払いにも活用が期待されています。山口県は、平成29年度から、農林総合技術センターと共同で、ドローンを活用した鳥獣害対策に関する実証試験を行なっています。野生鳥獣の追い払い効果を確認する実証試験では、シカ、サル、ヒヨドリ、カラスの追い払いに有効である場合があったものの、追い払いをすべき動物がどこにいるかを特定する方法、最も効果的な追い払い方法については今後の課題としています。

赤外線センサーを用いることで、獣道まではっきりと可視化でき、巡回パトロールを繰り返す中で害獣が頻繁に出現するエリアが見えてくるはずです。そうした害獣が現れやすい場所を飛行させることで効果的な威嚇が可能となります。また、物体認識と連動させれば、害獣を追跡し、搭載したサーチライトや音響装置で威嚇効果をさらに高めることも考えられます。あるいは、地上に設置したセンサーからのシグナルで飛び立ち、害獣を追跡するなどの自動化により、害獣対策をより効率的に推進できるものと思われます。

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監視・観察、現場に応じたアプリで得られる高い成果

記事で取り上げたように、害獣の広範囲の監視や夜間の行動把握には、ドローンが極めて有効です。ドローンは様々なセンサーを搭載し、目的に応じたデータ収集が可能です。赤外線センサーの代わりにモバイルLiDARを搭載すれば、下草などの障害を極力排除した精度の高い3Dマッピングを実現し、GMSデータと連携して餌場等の特定にも役立ちます。さらに樹種の識別も可能なため、シカによる樹皮の被害状況の把握に役立ちます。

弊社は、ドローンセンシングで取得したデジタルデータを活用したシステムづくりを得意とし、クライアントのニーズに応じてソフトウエアを受注開発する会社です。ドローンの活用方法やデータ解析に関する課題や疑問などがあればお気軽にお問い合わせください。