トンネルや地下溝、タンク内部などの点検保全分野では、センシング技術とともに重要なのが非GPS環境下で自律飛行を実現するガイドシステムです。いくつかのガイド方式が実現されていますが、追加のセンサーを必要とする場合、センサーのほか計算処理用のマシンを積載するため、ドローン自体の大型化が必要となります。
そんな中、導入が容易でドローンに標準搭載されているカメラだけで実現できる方式として浮かび上がるARマーカー方式について、他の方法と比較しながら、その特性を見ていきましょう。
重要度が増す非GPS環境での自律飛行能力
都市部での自律飛行や点検業務への本格的なドローン導入には、非GPS環境下での自律飛行能力の向上が不可欠です。
ドローンの飛行性能向上が進めた規制緩和
ドローン測量を始め、インフラ点検や配達など、様々な現場でドローンの利用が可能になったのは、ドローンの飛行性能の向上により、その安全性が認められたことによるところが大きいと言えます。「小型無人機の利活用と技術開発のロードマップ」には、都市部での目視外飛行を実装するレベル4飛行に必要な技術要件が挙げられています。
その中で、機体性能に関わる項目は以下の通りです。
- 異常診断…機体が自らの異常を検知し、安全な緊急着陸など適切な対応を行う機能
- 落下時の安全性…万が一、落下しても地上の人や物件が安全であること(落下の衝撃が小さい、電池の破損等による火災が起きない等)
- GPS/非GPS飛行…GPS信号の受信の有無によらず安定飛行する機能
非GPS環境下でドローンを自律飛行させる技術とは
まず、GPSについて振り返りましょう。GPSとは「Global Positioning System」の略称で、「全地球測位システム」と訳され、「人工衛星(GPS衛星)から発せられた電波を受信して、現在位置を特定する」システムです。ドローンはこのGPSを使って自分の現在位置を測位し、その他のセンサーと連携して自律飛行を実現しています。
しかし屋内や地下室、トンネル内部、橋梁の下、タンク内部など金属製の建築物による磁場の影響を受ける場所では電波受信が難しく、GPSが利用できないか測位誤差が大きくなる恐れがあります。このため、GPS利用が困難な環境下でドローンを自律飛行させる主な方式として、VisualSLAM(Simultaneous Localizationand Mapping)、ビーコン方式、ARマーカー方式などいくつかの方法が利用されています。
VisualSLAMは、カメラで撮影された映像から環境の3次元情報とカメラの位置・姿勢を同時に推定する技術で、飛行しながら地図を作っていく技術とも言えます。精密な位置情報が得られる反面、膨大なデータ処理を行うハイスペックマシンをどう積載し、配置するのかが課題です。
ビーコン方式は域内に信号を発する装置を設置し、その信号を受信することで位置を推定する方法です。その一つが、Bluetooth(ブルートゥース)を利用したBLEビーコンです。測位用の信号としてWi-Fiや音波なども利用されます。簡易な信号であれば小さなマイコンでも制御できるため軽量に実現できますが、信号を発する装置を作動させるためには電池などの電源が必要であったり、金属による電波干渉や音波の場合は音が反射する狭い空間では利用できなかったりと、細かく柔軟な飛行制御を行うには課題があります。
AR(拡張現実)が自律飛行を制御
現実の世界とコンピューターの世界を繋ぐ、簡易で高性能な技術であるAR(拡張現実)は、ゲームから軍事まで、様々な分野で利用されており、非GPS環境下の制御技術としても期待されています。
迷路のようなビルの内部をARマーカーで道案内
ARマーカーがどのようにドローンをコントロールするのか。米国のソフトウェア開発会社「MoViDev」の動画が参考になります。同社は、ARマーカーを利用した屋内ナビゲーションシステムを販売しています。複雑なオフィスビルの中でエレベーター近くの壁など要所に張り付けられたARマーカーにスマートフォンをかざすと、廊下に仮想現実の矢印が現れ、その矢印を辿っていけば目的地まで案内してもらえるというものです。
マーカーの指示で屋内を自律飛行
弊社は、GPSの届かない屋内でも、できるだけ安価で簡易にドローンを自律飛行させる手法としてARマーカーを採用し、開発を進めています。先に紹介した海外事例では、ARマーカーをスマートフォンのカメラで読み取り、人間を誘導するために方向を示す矢印をディスプレイ上に表示するだけで済みました。しかし、ドローンを飛行させるためには、飛行ルートと障害物の回避指示が必要です。
一般にARマーカーとは、ARコンテンツを発動させるユニークな特徴点を持つ図形イメージのことです。パターンの異なるARマーカーを複数利用することで、非GPS環境下でのドローンの自律飛行を低コストで実現することができます。
弊社では、一般住宅の狭い屋内(2.6m×3.4m)から工場建屋内(9m×19m)まで様々な条件での実用試験を重ねてきました。同一部屋内での移動や同一階の異なる部屋への移動、階段の上下移動や屋内でのドローン自律飛行テストなど、繊細なコントロールが要求される環境での自律飛行を成功させています。また、工場での監視業務を想定した屋内巡回テストでも好結果を得ることができました。
ドローンは、搭載カメラでARマーカーから飛行方向と高度を受け取り、それに基づいて次のマーカーに向かいます。到達したら、そこで新たな飛行指示を受け取ってその次のARマーカーまで飛行します。その繰り返しにより思い通りのルートを自律飛行させることができるのです。階段や狭い廊下などがある複雑なルートでも、要所にARマーカーを貼付しておくことで、順次ARマーカーから回転や上昇、降下などの細かい指示を受け取ってスムーズな飛行が実現します。また、壁に近づくほど飛行速度を抑えるようにするなど細かい指示が可能で、衝突を避けながら複雑なルートを自律飛行させることができるのです。
屋内を自律飛行するドローンへの高まる期待
記事で見てきたように、非GPS環境下でドローンを自律飛行させることへの需要が高まっています。弊社はそのことに早くから着目し、これまで実現のための研究開発を重ねてきました。その結果、ARマーカー方式であれば、ドローンに搭載されたカメラを使って自律飛行させることが可能であると分かりました。
こうした研究の成果が、お客さまのご要望に沿ったシステムの開発に活かされることとなります。それが弊社の強みであり、また創意工夫によって簡単で導入しやすい技術を開発するのが弊社のポリシーでもあります。お客さまのご要望に合わせて、様々なソフトを一つ一つ受注開発いたします。疑問点やご要望などがあれば、まずはお気軽にお問い合わせください。