2020年6月はじめ、ナショナルジオグラフィックは3Dモデルをアイキャッチにして、マヤ文明最大の遺跡発見を報じました。この遺跡発見の発端は、2017年に行われた航空機からのレーザー技術「LiDAR」を用いた調査でした。「LiDAR」は、Light Detection and Rangingの略称です。パルス状に発光するレーザー照射に対する散乱光を測定し、遠距離にある対象までの距離やその対象の性質を分析するものです。雑草などに隠れた調査対象物も、解析技術を駆使して邪魔な要素を取り除くことで3Dモデルとして「見える化」することができます。熱帯雨林に埋もれた道が見つかり、やがて南北1400メートル、東西400メートルにわたって広がる土の基壇を発見することができたそうです。

そして、取得されたデータから3000年前の姿が3Dモデルで現代に蘇ったのです。こうしたデジタルデータを駆使する考古学はサイバー考古学と呼ばれ、年々盛んになっています。

参考記事
関連記事

ドローンが画像から蘇る古代文明

近年、ドローンはより容易により詳細に3Dデータを取得できる調査ツールとして活用されはじめました。

サイバー考古学は3D点群データ活用考古学

発掘現場の遺構を正確に記録するためには、測量機器を使って計測し、図面化する必要があります。そのため、考古学において測量は極めて親和性の高い作業で、測量技術の進化がそのまま考古学調査にも反映されます。

東京大学のホームページに掲載されている「今、そこにある『過去』三次元デジタルデータ化技術で挑むサイバー考古学」は、サイバー考古学の先駆者の苦労とデジタルデータ活用の発達がわかる資料で、カンボジアにあるアンコール遺跡バイヨン寺院のデジタルデータ化の記録となっています。

広さ160m×140m、高さ45mもあるバイヨン寺院には、従来の固定型センサーが利用できない問題があったため、気球にセンサーを吊り下げた「気球型移動距離センサー」を開発したようです。
他にも、2005年当時はデータ量が膨大であることが原因で計算速度が遅いという問題がありました。そこで、1台のコンピューターだけではなく、複数台のコンピューターを同時に使用したり、2枚の画像の高速位置合わせによって解決し、取得した3Dデータから3Dモデルを制作していたそうです。

それまで肉眼では発見できなかった遺跡の改変を明らかにするなど「見えないものを見るサイバー考古学」の黎明期が語られています。

参考記事
関連記事

ドローンで現場をスキャン。考古学調査におけるドローンの活用事例

距離を測る光波測距儀と、角度を測るセオドライトとを組み合わせた測量機器「トータルステーション」や航空写真の活用、気球によるスキャニング、そしてドローンの考古学研究現場への登場は、測量技術の発達過程そのものであり、自然の成り行きと言えるでしょう。ここでは、大規模なドローン利用を2例紹介します。

1つ目は、イギリス・スコットランドの島嶼部を俯瞰調査した事例です。 Smithsonianmag.comは、2018年11月、スコットランド環境保護団体が地図制作会社Geo.Geoと協力して、固定翼ドローンを合計約250マイル飛行させ、4000枚の超高解像度画像と4億2000万個のデータポイントを収集したことを報じました。
そのデータはスーパーコンピューターで分析され、島の遺跡を正確に特定できるほど非常に詳細な3Dマップの作成を実現しました。

参考記事

2つ目は、我が国チームのエジプト・ピラミッド調査の事例です。日立システムズは、ジェピコと共に東日本国際大学を中心とした「大ピラミッド探査プロジェクト」に参画し、高性能な1億画素カメラや3次元化技術を活用することで、大ピラミッド内部の高精度3Dモデルの作成に成功したと2020年1月にプレス発表しました。

ピラミッドの画像

ジェピコが中判カメラサイズのセンサー(1億画素)を持つ超高解像度カメラを使用して大ピラミッドの内部を撮影。その2次元画像をもとに、日立システムズがPix4D社のPix4Dmapperを利用して3D化することで、暗く色味の少ない大ピラミッド内部の高精度3Dモデルの作成に成功しました。Pix4DmapperはSfMソフトウェアです。SfM(Structure From Motion)とは3Dモデル化したい物体を被写体として、カメラで撮影した複数枚の画像から3Dモデルを作成する技術です。Pix4Dmapperはこの技術を採用していますが、あえて必要以上に点群平滑化をおこなわないことで、データの高速処理と高精度な3Dモデルの生成を実現しました。

こうして作られた3Dモデルは、色味・形状などを忠実に再現することができるため、現場に行かずとも遠隔から撮影対象の調査や検証などを実施することが可能です。さらに、図面が存在しないピラミッドなどの遺跡や文化財などにおいても、高精度3Dモデルを図面代わりに活用することで、それらの修繕や保全にも貢献できるとしています。

参考記事

弊社でも、調査対象物体を撮影して調査ができる方法としてSfM技術を採用した3Dモデル生成をおこないました。対象物から離れた場所で撮影した画像を使って生成された3Dモデルでも、形状の細部まで観察できることを実証しています。例えば人が立ち入れないような場所にある対象物の調査にはたいへん需要があります。

参考記事

考古学調査データの意外な用途

見えないものを見せる3D点群データ。利用方法は、アイデア次第でいくらでも広がりそうです。

3Dプリンターで遺跡を実物大に再現

2016年4月、英ロンドンのトラファルガー広場でシリア中部にある古代都市遺跡パルミラの凱旋門の実物大レプリカが公開され話題を呼びました。実物はイスラム過激派組織によって破壊されましたが、デジタル考古学研究所が最新の3D印刷と彫刻の技術を使ってレプリカを製作したとAFP通信は伝えています。デジタルデータによって人類の遺産を映像だけでなく実物大の実体として再現することも可能となったのです。

参考記事

AR(拡張現実)で、目の前に古代の暮らしを再現、観光資源に付加価値

鳥取県は、青谷上寺地遺跡(鳥取市青谷町)の発掘で取得した3DデータをARコンテンツ化して遺跡観光の価値向上に活用しています。弥生時代前期終わりごろ(約2200年前)から古墳時代初めごろ(約1700年前)にかけてのムラの遺構です。
今は何もないこの遺跡にスマホをかざせば、弥生時代のくらしがARで浮かび上がったり、青谷上寺地遺跡展示館で出土品にスマホをかざすと展示品の発掘状況が映し出されたりするというものです。

参考記事

手軽に取得できる3Dデータをどう活かせるか

記事で見てきたように、3Dデータの用途は広く、市販のカメラや小型のモバイルLiDARで手軽に取得できることが分かりました。
弊社は取得したデータから対象物のサイズを計測する実験をおこなうなど、取得したデータを活かせる技術を持っています。お客様のニーズに合わせたソフトウェアをご提供できるのは、そうした経験があるからです。ドローンの活用方法やデータ解析に関する課題や疑問などについても、お気軽にお問い合わせください。