水産白書(平成30年度版)によると、世界の1人当たりの食用水産物の消費量は過去半世紀で約2倍に増加し、そのペースは衰えをみせません。魚介類の商品価値高騰を見込んで各国は自国EEZ(排他的経済水域)内における外国漁船の操業を規制する動きを活発化させています。そのため、消費者ニーズの高い魚種を計画的に生産・出荷できる養殖漁業の価値が高まっています。

しかし、この大切な資源は常に甚大な被害を伴う赤潮の危険にさらされており、魚介類を守るためには、いち早い赤潮の発見が不可欠です。その手立てとして、多様なセンサーを搭載して必要なデジタルデータが取得できるドローンの活用が進められています。

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養殖漁業を蝕む赤潮被害

赤潮とは、海水中で植物プランクトンが異常に増殖し、海の色が変わる現象です。赤潮が発生すると、魚のエラにプランクトンが張りついて活性酸素という物質を出し、エラを傷つけ「へい死」を招きます。

環境の悪化とともにやってきた赤潮

海苔の養殖では「色落ち」が問題となります。海苔の黒々とした艶が失われ商品価値が台無しになります。海苔は成長に栄養塩が必要ですが、赤潮の原因である植物プランクトンに横取りされ、成長不良を起こすのです。アサリやカキなどの二枚貝は、プランクトンを摂餌することで体内に毒が蓄積して「貝毒」を持つことがあり、出荷できなくなります。

このような深刻な被害をもたらす赤潮は、公害が叫ばれたのと同じ1970年代頃から顕在化しました。赤潮の発生は、海水に「富栄養化」をもたらす窒素やリン、その他有機物が要因で、生活排水や化学肥料などに含まれています。高度経済成長期に多量に排出され、それに伴って赤潮の発生件数が急増しました。その後、水質汚濁防止法の改正(1978年)によって排水基準が強化された結果、赤潮の発生件数が3分の1にまで減少しました。

被害は数億円も、苦慮続く対処方法

環境の改善が進んだ現在でも各地で赤潮の発生は継続しています。2017年夏には、長崎県の伊万里湾でトラフグやマグロなど計約68万5000匹が死に、6億1000万円の被害が出ました。翌年の夏には、豊後水道でマダイ等の養殖魚介類がへい死し、約2億3000万円の被害が出ています。こうした漁業被害を抑えるため、酸素の消耗を抑える「餌止め」をしたり、プランクトンの細胞を破壊する働きのある珪酸アルミニウムを主成分とする「粘土吸着物」を散布したりします。また、生け簀を赤潮が発生していない海域に避難させます。いずれの方法も実施に時間が必要で、被害を最小限にとどめるためには、いかに早く赤潮の発生を把握できるかが重要です。

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ドローンで赤潮の兆候を早期に察知

赤潮の早期発見のために、航空機や衛星を利用したリモートセンシングの利用が進められています。運用が簡単で用途に応じたセンサーが搭載でき、しかもコスト的にも優れているのがドローンを導入する魅力です。九州地方で産学行政が共同で実施している実証試験例をご紹介しましょう。

海上を飛ぶドローン画像

海水採取で有害プランクトンを自動判別

KDDIは長崎大学などと連携して2019年1月、長崎県五島市でドローンを使った赤潮発生の早期発見と漁業者に通知する仕組みの実証実験を実施したと発表しました。それによると、五島市が養殖に取り組むクロマグロは他の魚種に比べて赤潮に弱く、一刻も早い赤潮の検知が必要です。これまで船から目視による海域のパトロールや固定センサーを活用した計測、取水中の悪玉プランクトンの顕微鏡観察による量の計測などで監視してきましたが、漁業者への通知までに12時間程度必要でした。

そこで、ドローンの活用が検討されました。実証実験では、まず撮影用ドローンで養殖地全体の海水の着色具合を検知し、赤潮発生のリスクがある箇所を特定。その後、採水ドローンを派遣して多深度 (1m、3m、5m) の海水を採取し、AI分析を実施。有害プランクトンを画像解析で識別し、プランクトンの数を集計。解析結果をクラウド経由で漁業者へ赤潮状況として早期に通知するものです。これにより、海水の採水から赤潮を検知、漁業者への通知までの時間を約98%削減できたと実験を評価しています。

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定期巡回飛行、早期発見で被害回避

水産庁のホームページでは、「養殖業におけるICTの活用」の一つとして「有明海における海苔養殖の取組」の中でドローンの活用を紹介しています。漁業者が、水温等が測定できるブイを設置し、これらのデータを遠隔で把握する取り組みです。ドローンで空から撮影した養殖場の映像や、観測ブイから得られたデータをビッグデータとして蓄積・管理し、AIで画像を解析。赤腐れ病等の病害の発生状況を検知した結果や赤潮の広域的な発生状況を漁業者に早期に伝えようとするものです。

こうした赤潮の監視などの業務では、定期的な自律巡回飛行が求められます。目視外飛行では航空法の規制が、また港湾内でのドローン飛行は港則法により港湾管理者の許可が必要であり、認可申請のワンストップ化が望まれます。

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ドローンがスマート漁業に欠かせないデータ収集ツールに

記事で取り上げたように、広域監視やデータ収集にドローン導入は極めて有効です。蓄積したデータは、養殖魚への給餌量や時間の最適化による飼育経費の削減、市場データと連携した水揚げによる収益の向上など、スマート漁業推進に大きく貢献するはずです。

弊社は、ドローンセンシングで取得したデジタルデータを活用したシステムづくりを得意とし、クライアントのニーズに応じてソフトウエアを受注開発する会社です。海上保安庁のドローンを利用した人命救助支援にも参加しており、ドローンの海上飛行に関する知見も蓄積しています。漁業のほか、船舶、港湾等でのドローンの活用にも視野を広げています。ドローンの利用方法やデータ解析に関する課題や疑問などがあれば、お気軽にお問い合わせください。