米連邦政府は、ノースカロライナ州が橋の検査中にオペレーターから見えないところでドローンを操作することを許可しました(情報技術関連情報誌GovernmentTechnologyのウェブ版、2020年10月6日付)。我が国でも、2020年7月17日、インフラメンテナンスにおけるドローン活用の規制改革実施計画が閣議決定されました。

これまでは足場を組んだり、ロープアクセス(張り渡したロープにぶら下がって目的地まで移動する方法)を利用したりと、橋梁の状態を肉眼で確かめる方法が採用されてきましたが、ドローンの導入で橋梁点検の方法が大きく変わりそうです。

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ドローン橋梁点検でコストを75%削減

橋梁

米国ノースカロライナ州には検査しなければならない橋梁が年間に1万3500基あります。また、迅速に作業を進めるだけでなく検査官の安全性も向上させることが大きな課題となっていました。

膨大な数の橋梁点検、効率化と安全性が鍵

米国でも橋梁点検は、検査官が目視で観察し、打診で状態を確認していく調査方法がとられてきました。特殊なトラックに取り付けられたゴンドラに乗って現場に接近したり、ロープで橋脚まで降下したりして点検するというものです。調査費用は、調査に関わる直接的な経費だけでなく、安全確保のために必要な交通規制による間接的な費用も考慮に入れる必要があります。そうした経費の総合的な削減に向けてドローンの運用が検討され、同州では2016年からドローンによる点検が実施されてきましたが、目視飛行しか許可されておらず利用範囲が限られていました。

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FAAがドローンの自律飛行点検を認可した背景とは

FAA(米国連邦航空局)が、ノースカロライナ州の橋梁検査にドローンの目視外飛行を認可した背景には、ドローンの飛行性能の向上があります。同州が利用するSkydio社のディオドローンは、人工知能を搭載しており、GPS信号の信頼性が低い場所でも高度な自律飛行が可能です。

周囲の障害物を回避して小回りが利き、目視が難しい場所を飛行して、高解像度の写真を撮影することができます。Skydio社はブログで経費節減について以下のように述べています。
「一般的な高速道路橋の検査にかかる平均コストは、従来の手法を使用すると4600ドル程度です。しかし、検査に伴う道路閉鎖などの経費として1万4600ドルと従来の橋梁検査の機材は200万ドルから500万ドルを必要とします。
これに比べてドローンは数千ドルで購入でき、操作が容易です。そのため、検査あたりの運用コストは75%削減でき、交通の邪魔にならず渋滞も起こさない。」としています。

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ドローン橋梁点検が今後の主流に

ドローンによる点検

我が国には長さ2m以上の道路橋が約72万か所あります。2025年には、その内の42%が建設後50年以上経っています。この72万橋の内66%に当たる約48万橋の点検が市町村に任されていますが、資金と人手不足に悩んでいるのが現状です。

そのため、ドローンなどの新技術の導入で点検の効率化が望まれてきましたが、諸規制が実用を阻んでいました。この打開策として2020年7月14日に「規制改革実施計画」が閣議決定され、「インフラメンテナンスにおけるドローン利活用に向けた環境整備」の方針が明記されました。

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老朽化インフラを新技術・データ活用で点検メンテナンス

規制改革推進に関する答申」によると、インフラ施設の点検でドローンの活用が増加していることを前提に、その利用を促進するため、飛行規制の緩和や緩和手続きの迅速化が進められます。
例えば、2020年度に検討を開始し、結論後に速やかに措置をとる案件として、以下のように明記しています。

「インフラ施設の点検において、ドローンが活用される機会が増加する中、こうした一律の手続を見直し、施設保有者が保有施設の上空において飛行させる場合や、飛行範囲を制限する機能・係留措置やプロペラガード等の安全措置が講じられている場合、また、360 度監視可能なカメラの搭載により目視と同等の機能・性能が認められる場合等、ドローンの使用環境の多様化や安全性を高める技術の進展にあわせ、その適切性が認められる場合には手続を簡素化すべきである。」

引用: 規制改革推進に関する答申 | 内閣府

このほか、以下のように実施時期を定めて取り組むとしており、ドローンがインフラ点検手法の主流となるでしょう。

  • ①各地方公共団体の条例について改めて実態を調査し、その結果を国土交通省航空局のHPに反映し充実させる
  • ②携帯電話の上空利用について、利用手続きに要する期間を1週間以内に短縮する
  • ③将来的な目視外を含む長距離での利用を前提とし、5G用周波数を含めドローンに利用可能な帯域の拡張について、ドローン活用の動向を踏まえながら、技術的課題の解決に向けた技術的検討を行う。
引用: 規制改革推進に関する答申 | 内閣府
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動画データの解析で、老朽化を検知

ドローンを使うことで高所の映像を収集して点検に活かすことは容易ですが、映像のチェックを人間が行っていたのでは効率化とは呼べません。点検作業の効率化を果たすには、撮影した映像を画像認識やAIを用いて解析させる手法が有効です。

弊社は、国立研究所や製造加工メーカーからのご依頼で、壁面の劣化度判定や製品の品質・不良判定を行う画像認識技術やAI(機械学習)システムを数多く手掛けております。

この技術は、汎用ドローンに搭載されているRGBカメラで撮影した動画にも応用できるため、高所などの人が立ち入ることが難しい場所でも、安全かつ効率的に点検を進めることが可能になります。

まずドローンによる点検で、サビやコンクリートの割れなど問題のある場所をシステムで特定します。その後に、該当の箇所のみを重点的に目視や打診などを行うことで、少人数での対応を可能にするだけでなく、不要な足場の組み立てといった作業が無くなり、点検業務の迅速化と経費の削減に役立ちます。

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ドローンインフラ点検、重要さが増すデータ解析

記事で見てきたように、点検が必要なインフラには膨大な数があり、マーケットとして有望です。一方で、このビジネスチャンスを活かすためには、作業の効率化による人手不足解消が不可欠であり、その対策としてIoTの活用が注目されています。その主軸の一つとして、国はドローン運用の早期実現を目指して規制の緩和と法整備を急ピッチで進めています。

例えば、ドローンは予め設定した飛行ルートに従って定期的に巡回させるなどして定点観測が容易であり、蓄積された観測データを解析することで経年変化の推定が可能となります。将来的に点検が必要になる部分を予測することにより、効率的な点検・修理計画が立てられるようになります。また、デジタルデータからは3Dモデルなど直感的な理解に役立つ資料の作成も可能で、技術者とそうでない関係者間のコミュニケーションの円滑化にも役立ちます。

今後、デジタルデータの解析技術がインフラ点検ビジネスを大きく広げる必須項目になっていくと思われます。弊社は、ユーザー企業の要望に応じたセンシング方法の提案や解析ソフトを受注開発する会社です。疑問点やご要望があれば、ぜひお気軽にお問い合わせください。